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牛乳と健康に関する最新知識【2020年版】

牛乳や乳製品は欧米や寒い地域の伝統的な食品として根付いています。
日本も同様に第二次世界大戦後から学校給食のお供として多くの世代に浸透しています。

アメリカでは9歳以上の子どもおよび大人に対して1日237mlの牛乳または乳製品の摂取を推奨しています。
この推奨量はカルシウムの必要量骨折のリスクを減らす目的で定められています。

しかし現実は、牛乳および乳製品の摂取による健康へのいい影響に関しては確立されておらず、その一方で健康への悪影響に関する報告もされてきています。


本稿を読めば、

牛乳(乳製品)の飲用と健康との関連

について詳しくなれます。



乳製品に含まれる栄養素

牛乳にはアナボリックホルモンと同等の必須栄養素炭水化物、脂質、タンパク質、カルシウム、カリウム、リン)が含まれており、哺乳類の成長を促す機能を持ちます。

また、搾乳が行われるほとんどの期間、仔牛を妊娠していることから、IGF-1のほか、プロゲスチンやエストロゲン等のホルモンが大量に牛乳に含まれます。

○IGF-1:全身の成長を刺激し、体中のほぼすべての細胞、特に骨格筋、軟骨、骨、肝臓、腎臓、神経、皮膚、造血系、肺の細胞に対して成長促進効果を発揮する。

○プロゲスチン:卵巣の黄体から分泌されるホルモン。女性ホルモン。

○エストロゲン:卵巣から分泌されるホルモン。女性ホルモン。骨粗鬆症と密接に関係する。

ミルクの生成方法による効果

低温殺菌
ブルセラ症、結核、および他の病原体の伝染を減らします。

発酵
ヨーグルト、チーズ、ケフィアなど
ペプチドホルモンを変性させ、タンパク質抗原を変化させ、乳糖含有量を減少させ、細菌の組成に影響を与えます。

そのほかにも
バター低脂肪乳製品ホエイプロテインがあります。
(ビタミンA,Dを補えば食事をさらに強化できる)



乳製品による子どもの成長と発展

もし母乳がでない場合、牛乳は乳幼児にとって重要な栄養素を与えることができます。

しかしながら、乳製品の品質には細心の注意が必要です。さらに、ビタミンB12を付け加えること、わずかな日光への曝露によってビタミンDを生成することも必要です。

牛乳の摂取は、全体的な栄養素が十分に足りていても、身長の伸びに寄与することが明らかになっています。
しかしながら、このメカニズムは解明されていません。
(アミノ酸?アナボリックホルモン?)

牛乳にはタンパク質(プロテイン)の質を決定する成分である分岐鎖アミノ酸(BCAA)が豊富に含まれています。
BCAAの摂取は成長ホルモン活性を司るIGF-1を分泌させます。

なかでもロイシンは、細胞の複製やアポトーシスの抑制を管理するmTOR経路を活性化させることが明らかになっています。
※アポトーシス:細胞の自然死

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しかし、成長の加速と成人の身長の増加による健康への影響は複雑です。 身長が高いと心血管疾患のリスクは低くなりますが、多くの股関節骨折、および肺塞栓のリスクが高くなることも報告されています。



牛乳と骨および骨折のリスク

これまでの牛乳消費推奨の根源にある根拠は、骨の健康のためのカルシウムを満たすためにありました。

しかし、皮肉なことに牛乳消費およびカルシウムの摂取骨折と高い正の相関関係にあることが報告されています。(下図)

牛乳消費と骨盤骨折
Willett. 2020 NEJMより改変

上の図はあくまでも、相関図であるため、因果関係は示すことはできませんが、関係があることは確かであると言えます。ご覧のように、北欧地域が比較的消費量が多いにも拘わらず骨盤骨折件数が多い点に関しては、ビタミンDや民族性の背景が少なからず含まれている可能性はあります。

しかしながら、乳製品の消費が少ないことと、骨盤骨折の発生割合に関しては適合していると言えます。

 カルシウムの摂取と骨密度の関係

とある研究の報告では、1日1000〜2000mgのカルシウムを摂取することで、骨密度が1~3%の増加を見せたことを報告しています。しかし、1年後にはプラセボ群と同等の骨密度の変化率を示しました。

この減少が一過性であった原因は、試験期間の短さにあると言われます。そのため、骨折のリスクを評価する上では適さない研究デザインといえます。

アメリカの代表的な約1万人を対象とした研究では、カルシウムの消費量と骨密度には関連が見られなかったことが報告されています。

そのほかの追跡研究をメタ解析した2つの論文では、いずれも、カルシウムの摂取は骨盤骨折の予防に効果がないことを明らかにしています。

この現象は、老若男女一貫しており、青年時代に牛乳の摂取を意識的にしていた集団とそうでない集団の将来的な骨折発生割合には、差がないことも明らかとなっています。


牛乳消費と体重および肥満との関係

牛乳は世界的に体重管理の場で用いられています。

実際に、29本のランダム化比較試験をまとめた研究によりますと、牛乳および乳製品の消費と体重には変化が見られなかったことが明らかとなっています。

同様の報告はほかにもあり、牛乳および低脂肪乳、チーズの消費は体重の変化に影響を与えないことが明らかになりました。その一方で、ヨーグルトは減量と密接に関連することも報告されています。

これまでに報告された内容から、

アメリカ農務省(USDA)は体重管理には低脂肪乳や低脂肪乳製品と普通牛乳では差がない

ことを明言しています。



牛乳消費と血圧、脂質および心血管疾患との関連

牛乳の機能性に注目が集まっており、生活習慣病との関連についても期待されています。血圧脂質および心血管疾患との関連についてまとめていきます。


牛乳と血圧

牛乳には比較的カリウムの含有量が多いため、血圧を下げる効果が示唆されています。

高血圧を止めるための食事療法(DASH)には低脂肪乳製品が含まれていますが、実際食事療法の内容には低ナトリウムおよびふんだんな野菜と果物を含むことから牛乳の貢献は不明と言われています。

実際に、牛乳が血圧を下げる効果があるかどうかについて検討された研究では、一貫した結果が得られていないのが現状です。


牛乳と脂質

飽和脂肪酸の摂取量を減らすため普通脂肪乳に代わり低脂肪乳製品の摂取が推奨されています。乳脂肪分の65%は飽和脂肪酸で構成されており、LDLコレステロールの上昇に繋がる可能性が考えられています。

アメリカ農務省(USDA)のガイドラインでは、飽和脂肪酸を炭水化物に置き換えることが推奨されており、LDLコレステロールの減少が報告されていますが、同様にHDLコレステロール(善玉コレステロール)の減少および、中性脂肪の増加が起こると言われています。

飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に置き換えるとLDLコレステロールのみ減少することが報告されており、他の悪影響は生じないと言われています。



牛乳と心血管疾患

追跡研究によると、全乳や低脂肪乳の消費と冠動脈疾患または脳卒中の発症および死亡と明確に関連しないことが明らかにされました。

全乳および低脂肪乳製品の消費と冠動脈疾患は同様の関係性を示しました。これらは赤肉を消費する集団よりリスクは低かったが、魚やナッツを多く消費する集団よりは高いリスクを示す結果となりました。

同じように、乳製品の消費は多価不飽和脂肪酸または植物脂肪を消費するより心血管疾患発症のリスクが向上することが示されています。



牛乳消費と糖尿病

牛乳の消費は1型糖尿病との関連がかねてより噂されていきました。乳タンパク質と膵臓ランゲルハンス島に交差反応がある可能性が考えられていたためです。

しかしながら、加水分解タンパク質で離乳した子どもは牛乳で離乳した子どもよりも7年後のβ細胞の抗体は少なくなかったため、1型糖尿病との関連については不明なままです。

数々の追跡研究によると、乳製品の消費は2型糖尿病の低リスクと関連する可能性が示唆されています。

また、甘味料入りジュースに比べ乳製品の消費は糖尿病罹患リスクは低く、コーヒー消費よりは高いリスクを示すことも明らかになっています。

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牛乳消費とガン

国際的な比較では、乳製品の消費は乳がん前立腺がんなどのがんと強い関連があることが報告されています。

牛乳の消費に伴う血清のIGF-1の増加がガンのリスクを向上させると現在では考えられています。

そのほかにも卵巣ガン大腸ガンとも関連があることが報告されています。

しかしながら、これらの研究の多くは中年から上の世代を対象にして行われた研究であり、ガンの多くの危険因子は若年期に起因することから、因果関係には限界があると言えます。



牛乳とアレルギー

乳幼児の約4%は牛乳にアレルギー反応を示すと言われています。そのほかにも、牛乳の消費はアトピー傾向を悪化させ、喘息、湿疹と言ったアレルギー素因を与える可能性も示唆されています。

しかしながら、アトピーの家族歴を持ち、加水分解タンパク質処方を受けるように無作為に割り当てられた乳児は、牛乳を摂取するように無作為に割り当てられた乳児よりも、アレルギー性疾患や湿疹のリスクが低かったことが明らかになりました。

乳糖不耐症の子どもに対して、豆乳を与えると症状は改善するものの、牛乳では効果がないことも報告されています。


牛乳と総死亡率

29本の論文をまとめたメタ解析によると、牛乳摂取または乳製品の摂取と総死亡率には関連がないことを報告しています。

別の報告では、30年以上の大規模追跡調査を行った結果、全乳の摂取と総死亡には強い正の関連が見られたが、低脂肪乳では関連が見られませんでした。

主要なタンパク源毎に死亡率を比較した場合、加工肉や卵の消費は非常に高い死亡率と関連するのに対し、乳製品の摂取は未加工肉、鶏肉、魚の摂取と同等のリスクであることが明らかになりました(下図)。

総死亡率とタンパク質源の関連 
Willett 2020 NEJMより改変




牛乳とオーガニックおよび牧草栽培

従来の牛乳の消費より有機牛乳の消費が促進されています。これは、牛のソマトトロピンや残留農薬の影響がまことしやかに囁かれ初めて来たからであります。
※ソマトトロピン:成長ホルモン

牛に対するソマトトロピンの使用は人体への影響が少なからずある可能性が示唆されています。

カナダおよびヨーロッパ連合はソマトトロピンが使用された牛乳の販売を禁止しました。これは人体への影響を考慮したわけではなく、動物福祉の観点からこの決定に踏み切っています。

有機牛乳は、従来の牛乳よりもわずかに多い量のn-3多価不飽和脂肪酸とβカロテンを持っている可能性があります。この有機牛乳は牧草を食べている牛から搾乳した牛乳です。


多価不飽和脂肪酸は動脈硬化や血栓を防ぎ、血圧を下げるほか、LDLコレステロールを減らす作用を持つと言います。

βカロテンはビタミンA の前駆体、つまり体内ではビタミンA の作用を持つため、皮膚の保護や粘膜の健康を維持する役割を持ちます。




環境への影響

食品を生産するときには直接的もしくは間接的に環境を通じて健康への影響を与えます。特に、乳製品の生産は大豆や他の穀物の栽培よりも5-10倍の温室効果ガスなどの環境へのダメージを与える可能性があると言われています。

全世界がアメリカが推奨する食事摂取量ガイドラインを遵守すると、甚大なダメージを環境へ与えることになります。逆に、乳製品の生産を縮小させると、温室効果ガス削減目標へと近づくと試算されています。



まとめ

牛乳は主要栄養素と微量栄養素が複雑に絡まり、人の成長へ繋がる栄養素として作用してくれます。しかし、現実には他の食材からでも栄養素は補えることは確かです。

成人
アメリカの定めるガイドラインの推奨摂取量は骨折を予防する効果は認められませんでした。さらに、体重管理糖尿病および心血管疾患の発症との関連についても明確な関係性はありません。

一方で、乳製品の多量摂取は前立腺ガン子宮内膜ガンのリスクを上げる可能性がありますが、大腸ガンのリスクは下げる可能性があります。

子ども
子どもに対する牛乳消費の影響は不明な点が多く残っています。子どもは成長するために多くの栄養素を必要とすることやデータの不足が原因です。

もし、母乳が出ない場合、牛乳は非常に重要な栄養補給の役割を果たします。成長速度の促進や、身長の伸びといった利点もある一方で、骨折がん罹患のリスクは未だに議論の最中にあります。


結論として、現在推奨されている更なる乳製品の摂取は栄養を十分に摂取できない地域(貧困地域)では有効な栄養改善の方法とされますが、十分な栄養を確保できる環境では必要ないと考察することが出来ます。

このとき、不足するとされるカルシウムケール、ブロッコリー、豆腐、ナッツ、豆類などで補うことが理想です。

同じく不足するとされるビタミンDサプリメントを使用することで乳製品よりも遙かに低コストで栄養を摂取することが可能です。


引用文献

Willett. and Ludwig. 2020. N Engl J Med. 382(7):644-654, Milk and Health.

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